このページの要点
- 月額は保守の体制と対応できる状態を維持する対価であり、作業がない月も減額・返金しないと書く。
- 上限を書いたら、報酬の条で内訳を示し、超える作業は見積りと承諾に基づく別の発注にする。
- 前払いの契約では、不払い時に何をどこまで止めるか、予告と再開の条件を決める。
- 料金の改定は、申入れの期限・回答の期限・無回答の扱い・不同意のときの終了まで手続で書く。
結論:月額は「体制を維持する対価」。時間の上限と超過の扱いを報酬の条に書く
月額固定の保守契約で、委託者からよく出る疑問は二つです。問い合わせが一度もなかった月も同じ金額を払うのか、そして、月の作業時間の上限を超えたら追加料金が要るのか、です。保守ベンダーの保守契約では、月額には保守の体制と対応できる状態を維持する対価が含まれるので、その月に問い合わせや作業がなくても減額・返金しない、と定めていました。保守は、障害が起きたときにすぐ動ける状態を毎月確保しておくことに価値がある契約だからです。
二つ目の疑問は、契約書の書き方しだいで結論が変わります。個人のWebデザイナーの保守・運用契約の原案は、業務の内容の条で「月10時間以内の作業」を月額に含めていたのに、報酬の条には10時間を超えたときの追加報酬の発生のしかたが書かれていませんでした。レビューでは、15時間働いても月額のままだと主張される余地があると指摘しています。業務の条で上限を書いたら、報酬の条にも超過の扱いを書く、というのがこのページの結論です。
前払いの扱い、支払が遅れたときの停止、料金の改定の手続、支払期日と取適法・フリーランス法との関係もあわせて整理します。月額の中身そのものは保守範囲の決め方、エンジニアの稼働を時間で精算する契約はSESの精算幅のページをご覧ください。
月額の内訳と、超過分を発注する手続
事務所の改訂例 月額に作業時間が含まれる保守・運用契約
報酬の定め
上限を超えた作業が月額の範囲か別料金かを、報酬の条で読めるようにするため。
支払が遅れたとき
未払いのまま保守を続ける状態を、条文で止められるようにするため。
保守ベンダーの保守契約では、回数・時間の超過分と範囲外の業務は、時間単価で算定した見積りを事前に示し、顧客の承認を得てから着手し、作業が完了した月の月額と一緒に請求する、と定めていました。受託開発会社の契約では、標準的な月間の稼働時間を定め、超える場合は事前に書面(メールを含む)で承諾を得て、承諾済みの超過時間は協議のうえ追加報酬とする、という書き方です。技術コンサルティングの月額プランでは、プランごとに稼働の目安(3時間まで、8時間まで、16時間まで)を示し、目安を著しく超える対応は事前に協議して書面で合意することにしていました。
建設会社が個人事業主に秘書業務などを委託した契約では、秘書業務を月額固定で「月10時間程度を目安」とし、超える作業が必要なら受託者があらかじめ相談し、超過単価での精算か翌月への繰越しなどを協議すること、毎月末に稼働時間を報告すること、お試しの期間の後に範囲と料金を見直すことを定めています。委託者の側から作った契約なので、上限を超えたら自動的に追加料金になる形ではなく、事前の相談を条件にしています。
工数の上限を委託者が決める条項と、固定報酬に「目安」を書くとき
時給制で情報セキュリティ関連の業務を受ける個人エンジニアに相手方が示した契約には、「月ごとの稼働の上限を甲が別途定めて通知する」「上限を超えた分は報酬を請求できず、甲は支払義務を負わない」という条項がありました。レビューでは、上限の通知の時期・変更の手続・異議の余地が不明確だと指摘し、上限を決める前に受託者が見積りを出せること、上限を委託者が恣意的に短く設定できないこと、上限の変更には協議を要すること、超過が見込まれるときの通知と承認の手続、そして承認が得られない場合の処理(追加報酬の協議や業務量の見直し)を事前に決めておくことを提案しています。上限を超えて働いた分が当然に無償になる設計は、受託者にとって最も重い形です。
反対に、固定報酬の準委任で稼働時間の「目安」を書くと、それが精算の基準だと受け取られることがあります。業務の自動化を外部のエンジニア会社に頼む委託側の契約では、6か月分の固定報酬を開始前に一括で払い、稼働は6か月で合計48時間程度を目安としたうえで、その目安は最低稼働時間や上限稼働時間、成果物の完成に必要な工数、報酬の算定単位を定めるものではなく、目安を上回っても下回っても報酬は増減しない、と書きました。月額に換算した金額は内訳と算定根拠の参考にすぎず、月額課金の契約であることや、月割り・時間単価で精算することを意味しない、とも定めています。
同じ契約では、報酬を業務の開始前に一括で払い、振込手数料は委託者の負担とし、支払が確認できるまで受託者は着手の義務を負わないことにしました。外部のAPIやSaaS、クラウドの利用料は委託者の負担とし、できる限り委託者がサービスの提供事業者と直接契約して直接支払う形にしています。受託者が立て替えて月額に上乗せする形にすると、利用量が増えたときの負担や、契約終了後のアカウントの扱いが問題になるからです。
事務所の改訂例 時間精算から「業務一式の固定報酬」への切替え
報酬の算定(当初の案から改訂)
研究運営の支援を再委託する契約で、作業時間の記録をめぐる負担と争いをなくすため。
想定を超えるとき
固定報酬でも、想定外の業務量に対応する出口を用意するため。
業務報告書
報告書の不備を理由に支払が止まらないようにするため。
前払いと、支払が遅れたときの停止
月額の保守やサポートでは、翌月分を前払いにする契約も多くあります。前払いの契約では、支払が遅れたときにサービスを止められるか、止めるならどこまで止めるかを決めておきます。
| 契約 | 支払の時期 | 遅れたときの扱い |
|---|---|---|
| 保守ベンダーの保守契約 | 月末締め・翌月末払い。合意すれば6か月分の一括前払いも可 | 遅延損害金年14.6%。支払が30日以上遅れたら受託者は無催告で解除できる。不払い・協力不足のときは保守を停止できる |
| 定額ITサポート | 前月末までに翌月分を前払い | 不払いは無催告でサービスを停止できる。受領済みの料金は原則として返還しない |
| テンプレート型HP制作と継続保守 | 毎月末日までに翌月分を前払い(年額一括も可) | 遅延が14日を超えたら7日前に予告してサイトの公開を一時停止できる。再開には未払金の全額と再開手数料 |
| HP制作・保守のひな形 | 年額(更新時に支払) | 保守と記事編集画面の提供を停止できるが、サイトの公開そのものは止めない。停止期間の保守料は減額しない |
| Webサイト保守(書き直し版) | 翌月10日払い | 遅延が30日を超えたら、催告のうえ業務の一時停止又は解除を選べる |
停止の範囲は、受託者の立場と顧客の事業への影響で選び方が変わります。サイトの公開まで止められる設計は、未払いを解消してもらう力は強い反面、顧客の事業を止めることになるので、予告の期間を置いています。HP制作・保守のひな形では、ヒヤリングで「保守と編集画面は止めるが、サイトの公開は止めない」でよいかを確かめたうえで、公開は止めない設計にしました。どちらを選ぶにしても、停止の前に予告をするのか、停止期間の料金はどうなるのか、再開の条件は何かを、条文に書いておきます。
料金が発生する時点と、途中で終わったときの扱いも、前払いの契約では明確にしておきます。テンプレート型のHP制作と継続保守の契約では、保守費用は公開が完了した日を含む月から発生し、年額を一括で払った場合の途中解約は返金せず、月額の場合も日割りの精算はしない、と定めていました。定額ITサポートの契約書も、前払いのため日割りの返金はなく、進行中の重対応やプロジェクト対応は終了時点までの費用を払う、としています。
前払いを受ける場合は、途中で契約が終わったときの返還の扱いも決めておきます。受託者の責めによる解除の場合まで未提供期間分を返さないと読める書き方は避け、その場合は返還する但書を置くのが基本です。
請求と支払の細かな定めも、月額の契約では毎月効いてきます。振込手数料は、別段の意思表示がなければ弁済の費用として債務者(支払う側)の負担になります(民法485条)が、事務所の書類では、保守ベンダーの保守契約のように「振込手数料は甲の負担」と明記するのが通常です。副業エンジニアの時給制の契約のレビューでは、振込手数料の定めがない点について、民法の原則どおり委託者の負担になると説明しました。同じ契約では時間の申告期限が毎月1日までとされていたので、申告が遅れると支払も後ろにずれることに注意するよう助言しています。
遅延損害金の率は、年14.6%とする契約が多く見られます。AI活用支援のコンサルティング契約のレビューで「年14.6%は高すぎないか」と聞かれたときは、事業者間の契約で採用例があり直ちに不合理とはいえないこと、法定利率を基準にする書き方や年6%・10%なども合意しだいで選べることを回答しました。インボイスについては、受託者が適格請求書発行事業者でないことを契約書に明記した保守・運用契約や、登録や抹消があったときは30日以内に通知し、違反したときは控除できなくなった消費税額に相当する額を上限に賠償する、と定めた仲介会社との基本契約がありました。月額の契約は長く続くので、契約の途中で登録の状況が変わる場合の扱いも決めておきます。
料金の改定は、申入れから終了までの手続で書く
保守は年単位で続く契約なので、人件費やサーバー費用の変動、システムの規模の変化に合わせて料金を見直す場面が必ず来ます。「協議のうえ改定できる」とだけ書くと、委託者が協議に応じなければ何も変わりません。保守ベンダーの保守契約では、改定の事由を4つ(人件費などの物価の変動、サーバーなど第三者サービスの料金の変動、システムの規模・利用者数・データ量などの前提の変動、対応件数・工数)に限り、工数については「直近6か月の平均で、月額の範囲の不具合修正の回数・時間(月1件・1時間)を著しく超えたとき」と基準を数字で定義しました。そのうえで、申入れから終了までの手続を次のように定めています。
料金の改定の手続(保守ベンダーの保守契約)
- 次の契約期間の開始日の2か月前までに申し入れる改定の事由と改定後の料金を、書面又は電磁的方法で示す。
- 顧客は2週間以内に回答する同意するか、同意しないかを、書面又は電磁的方法で回答する。
- 回答がなければ「同意しない」とみなす依頼者の原案は回答がない場合の扱いを定めていなかったので、事務所の修正版で追加した。
- 同意しないときは、満了日の1か月前までの通知で満了日に終了できる受託者は、旧料金のまま自動更新されることを強いられない。自動更新の条も、この場合を除くと連動させた。
回答がないことを「同意」とみなす書き方もあり得ますが、委託者に不意打ちになり、後で争われやすくなります。「同意しない」とみなし、そのうえで受託者が更新しない自由を持つ形のほうが、双方にとって筋が通ります。ほかの契約では、テンプレート型のHP制作と継続保守が60日前の通知で改定し、同意しなければ改定日の前に解約できる形、HP制作・保守のひな形が更新日の1か月前に通知し、同意しなければ更新しない形、生成AIの業務支援のサービスが、通知により、適用日以後に締結・更新される契約から新料金を適用する形をとっていました。
支払期日の数え始めと、取適法・フリーランス法
月額の保守を、個人や小規模な法人に委託する場合や、受託した保守の一部を下に出す場合は、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)や取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律。2026年1月1日に下請法から改称)の支払期日のルールがかかることがあります。
フリーランス法は、特定業務委託事業者が特定受託事業者に業務委託をした場合の報酬の支払期日を、給付を受領した日(役務の提供を委託した場合は、役務の提供を受けた日)から起算して60日の期間内で、できる限り短く定めなければならないとしています(フリーランス法4条1項)。取適法も、製造委託等の代金の支払期日を、検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日(役務提供委託の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日の期間内で定めるとしています(取適法3条1項)。どちらも、請求書がいつ届いたかではなく、給付の受領や役務の提供を受けた日から数えます。大手の顧客と基本契約を交渉した受託側の案件では、「請求書の発行時期又は到達時期は、支払期日の起算に影響しない」と明記し、準委任の業務は各暦月の末日に当該月分の給付が完了したものとみなす、と定めたうえで、支払条件を月末締め翌月末払いに一本化しました。
取適法の「役務提供委託」は、事業者が業として行う提供の目的である役務の提供を他の事業者に委託すること、と定義されています(取適法2条4項)。条文上、委託者が他人に提供する役務を委託する場合を指すので、保守ベンダーが顧客から受けた保守の一部を別の事業者に再委託する場面が典型です。一方、保守の中にプログラムの改修のような作成の作業が入ると、情報成果物作成委託(同条3項)に当たる可能性もあります。区分は契約の名称ではなく委託の内容で判断されるので、作成の作業が混ざる契約でも、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から起算して60日以内に支払期日が収まるように、締日と支払日を組み合わせておくのが確実です。60日の期間内に定めなかったときは、受領した日から起算して60日を経過した日の前日が支払期日とみなされます(取適法3条2項)。
継続的な保守では、料金の見直しの協議も法律と関係します。取適法は、中小受託事業者の給付に関する費用の変動などがあって代金の額の協議を求められたのに、協議に応じず、又は必要な説明や情報の提供をせず、一方的に代金の額を決めることを禁止しています(取適法5条2項4号)。事務所の提案書でも、保守・準委任の継続的な契約に、単価の見直しと協議の条項を置くことを勧めています。受託側から見れば、上で紹介した改定の手続の条は、協議を求めた記録を残す仕組みにもなります。
最低料金と最低利用期間
補助金の申請支援の個別契約では、担当者の人数にかかわらず月額の下限を設け、開始から3か月間はその下限を適用し、その後は協議する、という最低料金の考え方をとっていました。レビューでは、委託者の都合で業務量が減ったときの最低保証を入れる余地を指摘しています。受託者は、案件のために人員を確保しているので、委託者の都合で急に業務量がゼロになると、確保した体制の費用だけが残ります。
AI活用支援のコンサルティング契約のレビューでは、最低利用期間の中で委託者の都合により解約するときは残りの期間に相当する額を払う、という条を、最低利用期間内、最低利用期間の経過後、単発の契約、の3つの場面に分けて構成していることを確認しました。月額の契約で最低利用期間を置くなら、期間内の解約の精算、期間経過後の解約の予告、単発のスポット契約との関係を分けて書くと、場面ごとの扱いが読みやすくなります。
起きがちなこと:上限と報酬の条がつながっていない
月額の条は、範囲の条、対応時間の条、終了の条とつながっています。前払いと停止の扱いを決めたら、期間・更新・解約の条でも、途中で終わったときの精算を同じ考え方でそろえておきます。相談窓口型のサービスで、月額の外側の料金を「重対応」として設計する方法は定額ITサポートの三層構造で紹介します。
よくあるご質問
問い合わせがない月も、保守料を払う必要がありますか?
契約で月額を「保守の体制と対応できる状態を維持する対価」と定めていれば、作業がない月も減額・返金しないのが原則です。保守は、障害が起きたときにすぐ動ける状態を確保しておくことに価値がある契約だからです。
月の作業時間の上限を超えたら、どうなりますか?
契約の書き方しだいです。報酬の条で月額の内訳(基本業務と月○時間以内の作業)を示し、超える作業は見積りと承諾に基づく別の発注にする、と書いておけば、超過分を請求できます。上限だけを書いて報酬の条に何もないと、月額に含まれると主張されるおそれがあります。
保守料が払われないとき、サイトやシステムを止めてもよいですか?
契約に停止の条があれば、その範囲で止められます。予告のうえサイトの公開まで一時停止できる形、保守と編集画面だけを止めて公開は止めない形、催告のうえ業務の停止か解除を選べる形などがあります。停止の範囲・予告・再開の条件を決めておきます。
値上げを申し入れたのに、相手から返事がありません。
契約に手続を書いておくと対応できます。事務所が見直した保守契約では、開始日の2か月前までに申し入れ、2週間以内に回答がなければ同意しないものとみなし、受託者は満了日の1か月前までの通知で満了時に終了できる、と定めました。
月額の保守料の支払期日は、いつから数えますか?
フリーランス法や取適法がかかる場合、支払期日は給付の受領日(役務の提供を委託した場合は役務の提供を受けた日)から60日以内で定めます。請求書の到達日から数えるのではありません。締日と支払日の組合せが、受領日から60日以内に収まるかを確かめて設計します。
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