再委託・メンバー交代・直接取引の禁止

再委託とメンバーの交代は、委託者の安心と受託者の体制の両立を図る条項です。型を選び、手続を現実的にします。

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承諾が書面だけに限られていると、急な欠員の補充が間に合わず、約束した対応時間を守れません。

このページの要点

  • 再委託の型は、自由、異議権型、事前通知、承諾制、再々委託の禁止まで段階がある。個人情報を扱う案件だけ事前通知にする折衷もある。
  • 外部サービスや生成AIの利用は再委託に当たらないと整理しつつ、データ保護の義務は残すと書く。
  • メンバーの交代は、委託側は承諾制、受託側は受託者の専権と、立場で正反対の書き方になる。
  • エンドクライアントとの直接取引の禁止は、期間・対象の範囲・違反時の請求額の上限を決める。

結論:再委託は「型」を選び、メンバーの交代は「誰が決めるか」を立場に合わせて書く

保守・SESの契約では、受託者が業務の一部を別の会社や個人に回す「再委託」と、案件に入るエンジニアを入れ替える「メンバーの交代」が、どちらも日常的に起こります。委託者から見れば、知らない会社に自社のシステムやデータを触られたくない、慣れたエンジニアに続けてほしい、という希望があります。受託者から見れば、急な欠員や繁忙期に人を補充できないと、約束した対応時間を守れません。この利害の調整が、再委託とメンバー交代の条項です。

事務所の書類を比べると、再委託には、受託者が自由にできる型から、委託者の事前の承諾が要る型まで、いくつかの段階がありました。メンバーの交代は、立場によって正反対の書き方になります。発注者の側では「主担当者を固定し、交代には承諾が要る」、受託者の側では「交代は受託者の専権で、発注者は指名できない」です。どちらを選ぶかは、偽装請負の問題(指揮命令と偽装請負)とも関わります。

このページでは、再委託の型、交渉での折衷、外部サービスや生成AIの利用が再委託に当たるか、メンバーの交代と指名、エンドクライアントとの直接取引の禁止、多層構造の支払期日を順に整理します。

再委託の型を比べる

再委託の条項の型(事務所が扱った契約)
型条文の考え方使われた契約
自由(報告あり)受託者の責任で再委託でき、同等の秘密保持・個人情報管理の義務を課す。委託者から合理的な理由で求められれば、再委託先の名称と業務範囲を報告する受託側の開発等基本契約、SaaSと導入支援の一体契約の修正版
異議権型受託者は事前の承諾なく再委託でき、同等の義務を課して責任を負う。委託者が特定の再委託先に合理的な理由を示して異議を述べたら、その先には再委託しない保守ベンダーの保守契約
自由+事前通知受託者の責任で再委託できるが、委託者の利益を損なうおそれのある再委託や、個人情報を扱う再委託は事前に通知するテンプレート型HP制作と継続保守、補助金申請支援の個別契約の修正案
承諾制(メール可・緊急時は事後)事前の書面(電子メールを含む)による承諾で再委託でき、緊急時は速やかに報告して事後の承認を得る仲介会社との準委任の基本契約の修正版、Webサイト保守の書き直し版
承諾制+再々委託の禁止原則として事前の書面承諾。秘密保持契約を結んだ信頼できるパートナーへの開発業務の一部委託は事前通知で足りる。再々委託は禁止受託開発会社の基本契約
やむを得ない場合だけ傷病その他やむを得ない事由で自ら遂行できない場合に、委託者の事前承諾を得たときに限る個人事業主への運用代行の委託(委託側)

保守の再委託は、委託者の関心が高い一方で、受託者にとっては体制を維持するために欠かせないものです。SaaSの提供と導入支援を1本にした契約の当初の案では、再委託には事前の書面承諾が要るとしつつ、システムの保守やテストの支援などの軽微な業務は通知のうえ実施できる、としていました。改訂では「受託者は再委託することができる」と自由にし、委託者から合理的な要請があれば再委託先の管理体制を説明する、という形にしています。

大手の顧客との交渉では、顧客の側から、受託者の事前の書面承諾がなければ再委託できず、再委託先について自らの従業員と同等の責任を負う、という条件が示されました。AIツールの開発の契約では、再委託先を技術力・信用力・セキュリティの管理能力を評価して選ぶ、という選定の基準を置いていました。再委託を認める場合でも、再委託先の選び方の基準を書いておくと、委託者の不安を和らげられます。

HP制作・保守のひな形では、担当者を特定して原則として自ら業務を行うこととし、再委託には顧客の事前の承諾(メールでもよい)が要る、としました。事務所の提案書のチェックリストでも、再委託を事前の書面承諾にする場合は、委託者は合理的な理由なく拒否しないこと、再委託先の行為は受託者の責任とすることをあわせて書くよう勧めています。一人で受ける事業者の契約では、誰が担当するかが顧客にとって大切なので、再委託を認めるかどうかは、受託者の体制と顧客の期待の両方から決めます。

再委託を認めるときに、あわせて書くこと(事務所の書類から)

  • 再委託先に、本契約と同等の秘密保持・個人情報管理の義務を課すこと。
  • 受託者が再委託先の行為について責任を負うこと(再委託先の行為を受託者の行為とみなす書き方もある)。
  • 承諾や通知のときに示す事項(再委託先の名称・業務の内容・期間など)。
  • 承諾の条件として、秘密保持・知的財産の帰属の同等の適用、監査ができることを明記し、定期的な報告や監査の方法を決めること(情報セキュリティ関連の業務の基本契約のレビューで提案)。
  • 再委託先の事情を不可抗力として主張するときは、内容と影響を文書で示して委託者の承認を得ること(受託開発会社の基本契約)。
  • 士業などの専門家が関わる場合は、同等の秘密保持を課し、契約と費用は原則として委託者と専門家が直接結ぶこと(AI活用支援のコンサルティング契約)。
条文例 再委託(受託側の保守契約の異議権型を整理)

1乙は、甲の事前の承諾を得ることなく、保守業務の全部又は一部を第三者に再委託することができる。この場合、乙は、再委託先に本契約に基づく乙の義務と同等の義務を負わせ、再委託先の行為について甲に対して責任を負う。

2甲が特定の再委託先について合理的な理由を示して異議を述べたときは、乙は、当該再委託先に保守業務を再委託しない。

保守ベンダーの保守契約の条です。再々委託の制限は置いていなかったので、多層化を防ぎたい委託者からは、再々委託の禁止や事前通知を求められることが考えられます。

交渉での折衷:通知制と「合理的な理由なく拒まない」承諾制

受託者が自由に再委託できる型は、委託者から修正を求められやすい条項です。事務所が改稿した開発等基本契約のレビューでは、委託者は個人情報保護法上の委託先の監督を理由に事前の承認を求めてくると想定しました。個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合、委託先に対して必要かつ適切な監督を行わなければなりません(個人情報保護法25条)。委託者が再委託先を知らなければ、この監督の義務を果たせないからです。

事務所の改訂例 再委託の条項の譲歩案(受託側の基本契約)

案A:事前通知制(譲歩【中】)

改訂前受託者の責任で、委託者の同意なく再委託できる
改訂後再委託先の名称と業務範囲をあらかじめ委託者に通知して再委託できる

委託者が委託先の監督のために再委託先を把握できるようにしつつ、承諾の待ち時間をなくすため。

案B:承諾制(譲歩【大】)

改訂前同上
改訂後事前の承諾を要するが、委託者は合理的な理由なく承諾を拒み、又は遅らせてはならない

委託者の承諾権を認めつつ、理由のない拒否で受託者の体制づくりが止まらないようにするため。

レビューでは、個人情報を扱う案件に限って事前通知にする折衷が現実的だとも書いています。注文書には、再委託を「可/可(事前に委託者へ通知)/不可」から選ぶ三択の欄を置き、案件ごとに決められるようにしました。基本契約で一律に決めず、個人情報やシステムの機密性が高い案件だけ厳しくする設計は、保守・SESの契約でも使えます。

反対に、委託側で承諾制を採る場合は、承諾の方法を緩めておくことが受託者との関係では大切です。仲介会社から示された基本契約の原案は、承諾を書面に限っていたので、緊急時に対応できないと指摘し、修正版では電子メールでの承諾も有効とし、緊急時は速やかに報告して事後の承認を得る形にしました。注文書方式のWebシステム開発の意見書では、一人のフリーランスや小規模な開発者に「事前承諾+全責任」を課すのは負担が大きいとして、再委託が合理的で、再委託先に同等の義務を課すなら認める形への修正を提案しています。

外部サービスや生成AIの利用は、再委託に当たるか

保守や運用の作業では、クラウドのサービス、監視ツール、メール配信のサービス、生成AIなど、外部のサービスを使うことが避けられません。これらの利用が再委託に当たるとすると、ツールを一つ導入するたびに承諾が要ることになります。事務所の書類では、この点を条文で整理していました。

  • HP制作・保守のひな形では、再委託は承諾制にしつつ、外部サービスの利用は再委託に当たらないとし、ただし情報を保護する義務は免れないと定めました。
  • 業務の自動化を外部のエンジニア会社に頼む委託側の契約では、承諾を得た外部AIサービスや外部サービスの利用は、提供事業者に「本業務の中核的な判断又は遂行を委ねるものでない限り」再委託に当たらない、としつつ、データを保護する義務は免れないと定めました。
  • 定額ITサポートの契約書では、必要な範囲の再委託や外部の専門業者の利用は、契約上の地位の譲渡に当たらないと整理していました。

2つ目の書き方の「中核的な判断又は遂行を委ねるものでない限り」という限定は、生成AIに業務の判断そのものを任せる使い方まで再委託から外さないための歯止めです。外部サービスの利用を再委託から外す場合でも、データの扱いの義務は残ることを書いておかないと、外部サービスに秘密情報を入れることまで自由だと読まれてしまいます。生成AIへの入力の扱いは、保守で生まれる資料の権利・秘密保持・生成AIのページで扱います。

メンバーの交代と指名:立場で正反対になる条項

オフショア開発の準委任の契約では、受託者が海外在住の外国籍のエンジニアを従事者に充て、英語で連絡・報告することにしたうえで、従事者の変更と再委託には委託者の事前の書面承諾が要ること、承諾後も同等以上のスキルと経験を持つ者であること、やむを得ない事由で従事者を変える場合は事前に書面で事情を説明し、承諾を得て、同等以上の代わりの従事者を速やかに出すことを定めていました。従事者の管理・監督は受託者が行い、従事者の行為に受託者が責任を負います。

委託側の契約では、さらに踏み込んで、受託会社の代表者を主担当者に固定した例があります。業務の自動化を外部のエンジニア会社に頼んだ契約では、代表者を主担当者とし、傷病などで変える場合は事前に理由と後任者の経歴・能力を説明して委託者の承諾を得ること(緊急時は事後速やかに)、変更によって品質・継続性・情報セキュリティの水準を下げてはならないことを定めました。小規模な会社に頼む場合、誰が担当するかは契約の前提そのものだからです。

一方、受託者の側から作った三者構造の契約では、従事者の選定・追加・交代は受託者の専権とし、発注者は特定の従事者の指名・固定化・排除を求められず、重大な支障があるときに協議を申し入れられるだけ、としました。事務所の提案書のチェックリストでも、特定の担当者の固定を義務にする条項は、受託者の裁量で交代でき事前の通知で足りる形に直すことを勧め、発注者による個別の指名や面接を条項にしないことを確認の項目にしています。

メンバーの交代の書き方の比較
観点委託側の書き方受託側の書き方
誰が決めるか交代には委託者の事前の承諾が要る受託者の専権。委託者は指名・固定化・排除を求められない
交代後の水準同等以上のスキル・経験。品質・継続性・セキュリティの水準を下げない受託者が適切な者を選ぶ。委託者は重大な支障があれば協議を申し入れる
手続事前に理由と後任者の経歴・能力を説明し承諾を得る(緊急時は事後)事前の通知で足りる
偽装請負との関係承諾制が「指名」や「面接」の運用にならないよう注意が要る受託者の独立性を示す要素になる

委託側の承諾制を採るなら、承諾は後任者の能力の確認にとどめ、発注者が候補者を面接して選ぶ運用にならないように書き方と運用の両方で注意します。

エンドクライアントとの関係と、直接取引の禁止

SESの多層構造では、受託者が実際に作業するのはエンドクライアント(最終的な顧客企業)の業務ですが、契約の相手は仲介会社です。仲介会社との準委任の基本契約の修正版では、受託者は仲介会社との契約関係に基づいて業務を行うものであり、エンドクライアントに対して直接の契約上の義務を負うものではない、と明記しました。エンドクライアントから直接クレームや損害賠償を求められたときに、誰が対応するのかを定める一文です。

仲介会社の側から見れば、紹介したエンドクライアントと受託者が直接取引を始めることは避けたいところです。そのための直接取引の禁止(引抜きの防止)の条項は、期間と範囲が論点になります。

事務所の改訂例 エンドクライアントとの直接取引の禁止(仲介会社との基本契約)

期間

改訂前相手方提示の原案は、契約終了後3年間、仲介会社のクライアントとの一切の直接・間接の接触・契約・報酬の授受を禁止していた
改訂後期間中と終了後1年間、仲介会社が紹介・共有したクライアント(見込み客を含む)との、業務委託・請負・雇用・顧問などの契約の締結、助言や支援、報酬・名義料の授受、他の業務提供者の紹介・媒介を、書面の承諾なく行うことを禁止

レビューでは、一般的な業務委託の競業避止(多くは6か月から1年)を明らかに超えると指摘し、1年から2年への短縮かクライアントごとの明確化を提案した。

趣旨と違反時の損害

改訂前趣旨の定めがなく、違反時の扱いも定めていない
改訂後クライアントの情報・ノウハウの保護と信頼関係の維持という趣旨を明記し、違反時の損害は「違反行為により得た報酬相当額又は個別契約に基づく年間報酬額を上限とする合理的な推定額」で請求できるとした

禁止の範囲を目的に合わせて絞り、違反時の請求額にも上限を設けるため。

情報セキュリティ関連の業務の契約のレビューでも、期間中と終了後1年間の直接取引の禁止について、対象となる顧客の範囲、直接・間接の範囲(すでに関係がある場合の例外)、期間・地域・取引範囲の合理性を確かめるよう助言しました。委託側の契約では、業務の自動化を頼んだ相手に対し、期間中と終了後2年間、委託者の秘密情報・データ・成果物・固有の業務フローを使って直接競合する第三者に同等のシステムを構築・提供することを禁止し、対象の事業・地域は業務開始前に協議して確認し、合意がなければ終了後は秘密保持と利用禁止の義務だけが残る、という形にしました。「同業他社の仕事を受けるな」ではなく「委託者の情報を使って同じものを作るな」と書くことで、禁止の範囲を目的に合わせています。

多層構造の支払期日と、上位の契約との連動

受託者が、エンドクライアントから受けた業務を個人のフリーランスに再委託する場合、フリーランス法の支払期日に特例があります。元の委託者から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、その業務の全部又は一部を特定受託事業者に再委託した場合で、再委託である旨、元の委託者の氏名又は名称、元の委託の対価の支払期日などを明示したときは、再委託の報酬の支払期日は、元の委託の支払期日から起算して30日以内で定めればよいとされています(フリーランス法4条3項)。Web制作会社がフリーランスに発注する基本契約では、発注書に再委託である旨・元の委託者の名称・元の委託の支払期日を明示したときは「元委託支払期日から30日以内」に払う、と定めました。明示を忘れると特例は使えず、原則の60日のルールに戻ります。

上位の契約が終わったら下位の契約も終わる、という連動も、多層構造では必要になります。研究運営の支援を再委託する契約では、期間を3か月とし、更新は委託者が発注元と関連する契約を継続して結ぶ場合に限ること、上位の契約が終了し又は業務が不要になれば当然に終了すること(終了時点までの適切な業務の報酬は払う)を定めました。期間・更新・解約の全体は期間・更新・解約と引継ぎのページで扱います。

起きがちなこと:知らない会社がシステムに触れている

再委託とメンバーの交代は、委託者の安心と受託者の体制の両立を図る条項です。型を選び、通知や承諾の方法を現実的にし、外部サービスの扱いを整理しておけば、運用の途中でもめることを減らせます。再委託先に渡すアカウントや権限の範囲は責任分界とアカウント管理のページをご覧ください。

よくあるご質問

保守ベンダーは、自由に再委託してもよいですか?

契約しだいです。受託者の責任で自由にできる型、委託者が合理的な理由で異議を述べた先には再委託しない異議権型、事前通知の型、承諾制などがあります。委託者が個人情報の委託先の監督を求める場合は、個人情報を扱う案件だけ事前通知にする折衷が考えられます。

多重下請(再々委託)を止めるには、どう書けばよいですか?

再委託の条とは別に、再々委託を禁止する一文を置きます。事務所が扱った受託開発の基本契約では、秘密保持契約を結んだ信頼できるパートナーへの一部委託は事前通知で足りるとしつつ、再々委託は禁止していました。

エンジニアの交代は、誰が決めるべきですか?

立場で書き方が分かれます。委託側の契約では交代に委託者の承諾を求め、同等以上のスキルを条件にする例があり、受託側の契約では交代を受託者の専権とし委託者は指名できない例があります。委託側でも、承諾が面接や指名の運用にならないよう注意が要ります。

エンドクライアントとの直接取引の禁止は、何年までが目安ですか?

事務所がレビューした仲介会社の原案は終了後3年でしたが、一般的な業務委託の競業避止(多くは6か月から1年)を超えるとして、終了後1年に短縮した修正版を作りました。対象のクライアントの範囲や、違反時の請求額の上限もあわせて決めます。

クラウドや生成AIを使うことは、再委託に当たりますか?

契約で整理しておくのが安全です。外部サービスの利用は再委託に当たらないとしつつ情報保護の義務は免れないとする例や、提供事業者に業務の中核的な判断又は遂行を委ねるものでない限り再委託に当たらないとする例があります。

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