SLA・SLO・対応時間の決め方

SLAが一切ないと、委託者は即時の対応、受託者は営業時間内の対応のつもりで、障害の日に初めて食い違いが表に出ます。

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「2営業日以内に対応」とだけ書くと、委託者は2営業日以内に直るものと読みます。

このページの要点

  • 一次回答を受付・状況確認・対応方針の連絡と定義し、調査・修正・復旧の完了期限ではないと書く。
  • 目標時間を示すなら、SLOとして運用指針にすぎず未達でも債務不履行にならない、又は保証値ではない努力目標だと明記する。
  • 数字は他社の例を写さず、受託者の人数・本業の有無・休日の対応の可否から逆算して決める。
  • 個人の受託者は対応枠と一次返信の目安を示し、常時待機・即時対応を保証しないと書く。

結論:SLAは「保証値」にせず、目安・目標として書く。一次回答は復旧期限ではない

SLA(Service Level Agreement、サービスレベル合意)は、応答時間、着手時間、復旧の目安、稼働率など、サービスの水準を数値で約束する取り決めです。SLO(Service Level Objective、サービスレベル目標)は、それを法的な約束ではなく運用上の目標として定めるものを指して使われます。保守契約にSLAが一切ないと、委託者は「すぐ対応してくれる」、受託者は「営業時間内に対応すればよい」と考えていて、障害が起きた日に初めて食い違いが表に出ます。個人のWebデザイナーの保守・運用契約の原案をレビューしたとき、事務所は業務内容の条の評価の中で、対応の優先度・応答時間・復旧の目安時間が一切ないことを、最大の問題として挙げました。

一方で、SLAを数値で書けば、それを守れなかったときに債務不履行を主張される根拠にもなります。事務所が扱ってきた保守契約は、この二つの要請の間で、次の3つの設計のいずれかをとっていました。

対応時間・水準の3つの設計
設計条文の考え方向いている場面
SLAを置かず、保証しないことを書く対応時間と一次回答の目安を定め、一次回答は復旧の期限ではないと定義する。無停止・一定時間内の復旧は保証しない受託者が少人数で、障害時の対応量を約束しにくい保守
SLOと名付けて運用目標にする折り返し・一次回答の目標時間を定め、運用指針にすぎず未達でも債務不履行にならないと明記する電話・チャットの相談窓口を持つ定額サポート
保証値ではない指標として着手時間を書く重大障害・軽微障害の別に着手の目安を定め、努力目標であって完了期限ではないと書くWebサイト保守など、委託者が障害時の目安を強く求める場合

このページでは、3つの設計の条文と、個人や副業の受託者に合わせた対応枠の書き方を紹介します。障害時の免責や賠償の上限はバックアップ・障害・賠償の上限、月額の範囲と対応回数の関係は保守範囲の決め方のページで扱います。

SLAを置かず、「保証しないこと」と一次回答の意味を書く設計

保守ベンダーの保守契約では、SLAの条を置かず、対応時間と一次回答を定義する方法をとりました。対応時間は平日10時から18時、メールは24時間受け付け、時間外に受信した連絡は次の営業日の受付として扱います。一次回答の目安は受付後2営業日以内で、一次回答とは、受付・状況確認・対応方針の連絡を指し、調査・修正・復旧の完了期限ではない、と書いています。そのうえで、業務の性質を定める条で、システムの無停止と一定時間内の復旧を保証しないと明記しました。

条文例 受付・対応時間(保守契約の例)

1乙の対応時間は、営業日の午前10時から午後6時までとする。電子メールによる連絡は24時間受け付けるが、対応時間外に受信した連絡は、次の営業日に受け付けたものとして扱う。

2乙は、受付後2営業日以内を目安として一次回答を行う。一次回答とは、受付、状況の確認及び対応方針の連絡をいい、調査、修正又は復旧の完了の期限を意味するものではない。

3本契約において「緊急時の復旧対応」とは、本件システムの全部若しくは主要な機能が利用できない場合又は甲の業務に重大な支障が生じている場合に行う一次切り分け、暫定措置及び合理的な範囲の復旧作業をいい、対応時間外の対応、第三者に支払う費用、大規模な再構築及び完全な復旧の保証を含まない。

「営業日」は、同じ契約の定義の条で、土日・祝日と受託者が事前に通知した休業日を除く日と定めています。

この保守契約では、障害の優先度を何段階にも分ける代わりに、「緊急」とそれ以外の2区分とし、緊急時の復旧対応は保守開始日から12か月ごとに1回まで月額に含める、という方式をとりました。緊急の判断基準(全部又は主要な機能が使えない、業務に重大な支障がある)を定義しておけば、何でも「緊急」として持ち込まれることを防げます。2回目以降の緊急対応は、範囲外の作業として見積りを出して受けることになります。

この設計で大切なのは、「一次回答」という言葉の意味を契約書の中で固定することです。「2営業日以内に対応」とだけ書くと、委託者は2営業日以内に直るものと読みます。受付と方針の連絡を指すと定義しておけば、2営業日以内に「原因を調べています、見込みはこうです」と連絡すれば約束を守ったことになります。

SLOと名付けて、未達でも債務不履行にならないと書く設計

事務所で扱った定額ITサポートの契約書では、電話の受付時間を原則11時から20時とし、即時に対応する義務はないこと、折り返しは営業時間内3時間以内を目標とすること、一次回答は営業時間内に受け付けてから24時間以内に行うよう努めることを定めていました。そして、これらは「サービス品質目標(SLO)」として定める運用指針にすぎず、未達であっても債務不履行の責任を負わない、と明記しています。

SLOという言葉を使う利点は、数字を示して委託者の安心につなげつつ、法的な拘束を外せることです。ただし、条文の中で「運用指針にすぎない」「債務不履行にならない」と書いておかないと、名前がSLOでも中身はSLAとして扱われるおそれがあります。

着手時間を「保証値ではない指標」として書く設計

Webサイト保守の契約では、委託者が障害時の目安を強く求めることがあります。レビューでは、不足している条文の一覧に「SLA」を挙げ、例として「重大障害は通知から24時間以内に着手、72時間以内に仮復旧。目安であり保証ではない旨を明記」と示しました。事務所の書き直し版では、受託者が個人であることを踏まえ、次のように定めています。

事務所の改訂例 Webサイト保守の対応水準

対応水準の定め

改訂前依頼者の原案には、対応の優先度・応答時間・復旧の目安の定めがない
改訂後「SLA」を応答時間・着手時間・復旧の目安の業務水準指標で保証値ではないものと定義し、重大障害(全体の停止など)は通知後72時間以内に対応に着手、軽微障害(部分的な表示の不具合など)は翌営業日以内に着手、いずれも努力目標であって納期・完了期限ではないと定めた

委託者は「すぐ」、受託者は「営業時間内」のつもりという食い違いを、数字で埋めるため。

対応時間

改訂前定めなし
改訂後平日10時から17時。24時間365日の常時監視は含まない

個人の受託者に常時の監視を期待されないようにするため。

レビューで示した例と書き直し版の数字が違うのは、個人の受託者が実際に守れる水準に合わせたためです。SLAの数字は、他社の例をそのまま写すのではなく、受託者の体制(人数、本業の有無、休日の対応の可否)から逆算して決めます。守れない数字を書くと、「努力目標」と書いてあっても、毎回の未達が信頼関係を損ないます。

個人・副業の受託者の対応枠を書く

建設会社が個人事業主に現場の帳票の遠隔運用代行などを委託した契約では、受託者が平日の日中に別の勤務を持っていることを前提に、対応時間を「平日夜間及び土日を中心に、週10時間、月40時間程度を目安」として確保すること、通常の連絡には原則として12時間以内に一次的な返信をすること、現場の作業日には1日30分程度の対応時間を確保すること、緊急の事案は時間外でも対応に努めること、そして「常時待機し、又は即時に対応することを保証するものではない」ことを定めました。ヒヤリングでは、早朝・夜間・休日の対応を期待するかを確かめています。

同じ契約には、アプリの不具合で作業の指示が届かない、日報が消えた、という場合に、受託者が速やかに原因を調査し、最短の期間で修理その他の対応をする、という努力義務の条があります。免責の条とは別に、この調査・修理の義務は免除しないと書きました。委託者の側から見れば、免責が広く書かれていても、障害時に受託者が動く義務は残っていることが条文で確認できます。

ホームページの管理とSNSの更新管理を受けた個人事業者の契約では、質問や障害にはできる限り速やかに対応する努力義務とし、即時の回答は保証しないこと、システム障害・サーバー障害・プログラム障害は制作会社等への取次ぎと連絡調整だけで自ら解決する義務を負わないこと、営業時間外や休日も任意に対応できるが24時間の常時対応義務や即時対応義務は負わないことを定めていました。

同じ契約では、サーバー・回線・クラウド・CMS・プラグイン・SNSの事業者の障害や、それらの保守・仕様変更のために業務ができない場合は受託者の責任ではないこと、外部サービスの継続的な提供・正常な動作・安全性は保証しないことも定めていました。対応時間の条で「何時までに対応するか」を書くのと同時に、外部の障害のときは状況の確認と連絡の調整にとどまることを書いておくと、障害のたびに受託者が復旧の責任を負わされることを防げます。

条文例 対応時間(副業の個人に運用を委託する場合の例)

1乙は、平日の日中に他の業務に従事していることを前提として、平日の夜間及び土曜日・日曜日を中心に、週10時間、月40時間程度を目安として本業務の対応時間を確保する。

2乙は、甲からの通常の連絡に対し、原則として12時間以内に一次的な返信を行う。緊急を要する事案については、前項の時間外であっても、可能な範囲で対応するよう努める。

3前二項の定めは、乙が常時待機し、又は即時に対応することを保証するものではない。

委託側から作った契約の条文を、考え方が分かるように整理したものです。ヒヤリングで、早朝・夜間・休日の対応をどこまで期待するかを確かめたうえで数字を決めています。

時間外の対応を月額に含めない場合は、範囲外の側にもそのことを書いておきます。保守ベンダーの保守契約では、範囲外の号に「現地作業、出張、休日・時間外の対応、詳細な調査」を入れていました。定額ITサポートの契約書では、現地への訪問・緊急・夜間・休日の対応を、月額の外側の「重対応」の判定基準の一つにし、料金の条でも、緊急・遠隔地・夜間休日の対応は月額に含まないと書いています。対応時間の条と範囲外の条と料金の条の三か所で同じことを言っておくと、どこから読まれても結論が変わりません。

ヒヤリングで確かめること 対応時間と障害時の扱い

  1. 不具合で業務が止まった場合に、どのような対応を期待するか。障害時に受託者が負う義務(調査・修理の努力義務か、取次ぎだけか)と、免責の条との関係を決める前提になります。
  2. 早朝・夜間・休日の対応を期待するか。期待するなら、どの程度の頻度か。対応枠の数字と、時間外の料金、常時待機を保証しない旨の書き方が決まります。
  3. 連絡の手段は何か(メール、チャット、電話)。どの手段の受付を正式な受付とするか。一次回答の目安を数え始める時点が決まります。
  4. 緊急連絡先は誰か。受託者と連絡が取れないときに、誰が何をするか。一人で受ける保守では、連絡不能時の解約と承継の手段が条文になります(終了時の引継ぎのページで扱います)。

対応時間の数字の比較

事務所が扱った契約の対応時間・目安
契約対応時間応答・着手の目安性質
保守ベンダーの保守契約平日10時〜18時(メールは24時間受付)一次回答は受付後2営業日以内目安。一次回答は完了期限ではない
定額ITサポート電話受付11時〜20時折り返し3時間以内(目標)、一次回答24時間以内(努力)SLO。未達でも債務不履行にならない
Webサイト保守(書き直し版)平日10時〜17時重大障害72時間以内に着手、軽微障害翌営業日以内に着手保証値でない指標・努力目標
技術コンサルティングの月額プランチャットは平日10時〜18時返信の目安は営業日48時間以内プランごとにオンライン面談の回数・時間
生成AIの業務支援の保守運用サポート平日10時〜18時(メール・チャット)原則2営業日以内に回答努力義務。税務などの専門的判断は含まない
テンプレート型HP制作と継続保守原則平日日中障害発生時の一次対応一次対応まで
遠隔運用代行(個人事業主)平日夜間・土日中心、週10時間・月40時間程度原則12時間以内に一次的な返信常時待機・即時対応は保証しない

並べてみると、営業日の日中を対応時間とし、返信や一次回答に1〜2営業日の目安を置く例が中心です。時間外の対応を月額に含める契約はなく、含めるなら範囲外の作業として別料金にしています。

優先度の段階と稼働率の約束は、別に設計する

大規模なシステムの保守では、障害の優先度を3段階や4段階に分け、段階ごとに応答時間と復旧の目標を決める方式もあります。事務所が扱ってきた中小規模の保守契約では、優先度は「緊急/それ以外」「重大/軽微」の2区分が中心でした。段階を細かくするほど、障害がどの段階に当たるかの判断で争いが生じるので、段階を増やすなら、判断基準(影響を受ける利用者の範囲、業務の停止の有無、代替手段の有無など)と、判断を誰が行うかを条文に書いておく必要があります。

稼働率(例えば月間の稼働率99.9%)やサービスクレジット(水準を下回ったときに料金の一部を減額・返金する仕組み)は、SaaSのようにサービスそのものを提供する場合の論点で、事務所の提案書でも、SaaSで稼働率・障害対応・サポートの水準を約束するならSLAと責任の制限をセットで定める、と整理しています。顧客のサーバーの上で動くシステムを保守する契約では、サーバーやネットワークは受託者の管理下にないことが多く、稼働率を約束すること自体が合わないのが通常です。

情報セキュリティ関連の業務を受ける個人エンジニアの基本契約のレビューでは、稼働時間・応答時間・障害対応・品質基準などのSLAは個別契約で定め、基本契約には参照条項を置く、という構成を補足の論点として示しました。案件ごとに水準が違うなら、基本契約に数字を書き込むより、個別契約に寄せるほうが運用しやすくなります。

対応の水準には、報告の頻度も含まれます。保守ベンダーの保守契約では、別紙の一覧で月次報告を「なし」と明記しました。報告書を作る時間も作業時間なので、月額に含めないなら含めないと書いておくほうが誤解がありません。Webサイト保守の書き直し版では、アクセス解析などの月次報告を翌月5日までに出すことにしています。業務の自動化を外部のエンジニア会社に頼む委託側の契約では、原則として月2回程度のオンラインの定例ミーティングで進捗を報告し、月次の確認では、委託者が確認の依頼を受けた日から5営業日以内に具体的な不適合を通知し、期間内に異議がなければ確認済みとみなす、と定めました。開発等基本契約の注文書の準委任版には、報告の頻度を週次・隔週・月次・随時から選ぶ欄を置いています。技術コンサルティングの月額プランでは、プランごとにオンライン面談の回数と時間を決めていました。報告や定例の回数を決めておくと、委託者は進み具合を確認でき、受託者は報告の負担を見積もれます。

対応時間・水準の条で決めておくこと

  • 対応する曜日と時刻。「営業日」の定義(土日・祝日・事前に通知した休業日を除くなど)。
  • 受付の手段(メール・チャット・電話)と、どの手段の受付を正式な受付とするか。
  • 対応時間外に受信した連絡を、次の営業日の受付として扱うこと。
  • 一次回答の意味(受付・状況確認・方針の連絡であって、完了の期限ではないこと)。
  • 「緊急」の基準と、月額に含む緊急対応の回数。
  • 着手・復旧の目安を置くなら、その性質(保証値ではない、努力目標である、未達でも債務不履行にならない)。
  • 常時監視や24時間365日の対応を含まないこと。時間外の対応をする場合の料金。
  • 報告の頻度と形式。報告を月額に含めない場合はその旨。

起きがちなこと:「2営業日」が復旧期限として読まれる

対応時間と目安の条は、保守の現場で委託者の期待を調整する最も身近な条です。数字の決め方とあわせて、範囲外の時間帯の対応を別料金としてどう請求するか、相談窓口型のサービスで重い対応をどう切り分けるかも確認しておくと、条文どうしがつながります。

よくあるご質問

保守契約にSLAは必要ですか?書くと責任が重くなりませんか?

何も書かないと、委託者は即時対応、受託者は営業時間内の対応のつもりで食い違います。保証値ではない目安・努力目標として書く、SLOと名付けて未達でも債務不履行にならないと明記する、SLAを置かずに一次回答の意味と保証しないことを書く、のいずれかの設計で、期待を調整できます。

「一次回答2営業日以内」は、2営業日以内に直すという意味ですか?

契約で定義しなければそう読まれるおそれがあります。一次回答を受付・状況確認・対応方針の連絡と定義し、調査・修正・復旧の完了の期限ではないと書いておきます。

個人の受託者に、夜間や休日の対応を求めてもよいですか?

求めるなら範囲と料金を決める必要があります。副業の受託者の契約では、対応時間を週10時間・月40時間程度を目安とし、通常の連絡は12時間以内に一次的な返信、常時待機や即時対応は保証しない、と定めた例があります。

障害の優先度は何段階にすべきですか?

中小規模の保守では「緊急/それ以外」「重大/軽微」の2区分が扱いやすい例が多くあります。段階を増やすなら、どの段階に当たるかの判断基準と判断者を条文に書いておきます。

稼働率99.9%のような約束は、保守契約にも入れるべきですか?

稼働率やサービスクレジットは、サービスそのものを提供するSaaSなどの論点です。顧客のサーバーの上のシステムを保守する契約では、サーバーやネットワークが受託者の管理下にないことが多く、稼働率を約束するのは通常なじみません。

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